good morning N°5「ただやるだけ」を観た
下北沢シアター711にて2020年11月19日から12月13日まで上演していた「ただやるだけ」を観劇。
「gmn5は凄い」と噂は聞いていた。
初めてgmn5の存在を知ったのは、2018年に公演された「ストリップ学園」という作品だった。これも作品名からして凄いのだけど。それは置いておいて。
いつか行ってきたいと思っていたgmn5の舞台を漸くこのコロナ渦の中観劇してきましたよという話。
初めて足を踏み入れた下北沢シアター711。
というか、小劇場での観劇がまず殆どないので、下北沢自体がほぼ初めまして。
検温、手指消毒、靴底消毒をして劇場へ。
うわあ、狭い!これは劇場への感想。そして何故か動物の被り物をしたキャスト全員が、その狭いハコでお出迎え。客入れの段階で既に始まっている異世界(ただし本編には一切関係ない)
インパクトがあり過ぎるフラミンゴ(澤田育子さん)をチラチラ見つつ、座席へ行くと束ねられたクラッカー4つと連絡先記入用紙。用紙を書いていても顔を見上げれば役者がいる。この段階で情報量が既に多い。動物被ってるし、お金の話してるし、なんか舞台上に砂が敷いてあるし。
座席に用意されたクラッカーは、己のテンションが上がった時、眠くなった時、紐をただ引っ張ってみたくなった時、いつでも鳴らして下さいなということ。このご時世で声を上げることが推奨できないから、代わりにと言うことだったのだけれど、これがまた面白くて、今ではクラッカーを鳴らした後の火薬の香りが懐かしい。
視覚、聴覚だけなく嗅覚でも思い出に染めてくれる。最高か。
物語は、3人の登場人物から始まる。机の上に座る女性、何かに悩む男性、そして背を向けて立っている男性。もとい電話。
…電話?
ここから始まる怒涛の90分、どうやったらあの衝撃とインパクトを伝えられるだろうと考えたけれども、答えがひとつも見つからなかった。
浮かんでくる言葉をどうにか繋げてみようと頑張ってみたものの、私には無理でした。お願い、体感してきて!としか言えない。早めの敗北。
無数の点が線になる。線になったときの快感。けれども点のままでもいいような気がする。
全く関係がないような奇妙で小さな物語が最後、真っ直ぐにつながるあのビリビリとしたような快感。ああ、やっぱり体感して!!となってしまう。
澤田さんの頭の中はどうなっているんだろう。何が見えているんだろう。頭の良い人が描くへんてこな世界はもはや狂気。恐怖を感じるレベル。
ポップで明るい賑やかな入り口の向こうに深い深い何かへ繋がっているような、何度も繰り返し訪れたくなる不思議な世界観だった。
畳み掛けてくる膨大な台詞量。その量に対して聴覚へ流れ込んでくる不快感がないというのは、台詞を発する演者の力も勿論だけども、台詞の語感や流れの良さなんだろうな。
出てきたお姿に「ああ、これがgmn5さん!」という感動を受けた藤田記子さん。
今回テーマになっている「屈辱」。そこに「測量」が加わり笑いを起こしながらもちくりと心に刺さってくる。その笑いの中に生々しく的確に仕留めてくるような針の入れ方がとてつもなかった。痛い痛い痛い。
そして楽しみにしていた中村中さん。歌声に痺れ、あまりにも贅沢な空間過ぎて謎の不安にかられてしまう。空気の振動まで伝わってきそう。客席と舞台を隔てたビニールカーテンが要所要所で感染対策を超えて演出にさえ思えてきた。
そう、演出。
澤田さんの客入れ時のお言葉を拝借すると「どちらかというと飛沫の飛ぶタイプの演劇」というわけで設置されていたビニールカーテン。
その隔たりを逆手に取った、砂を使った演出。
舞台上部からざああっと綺麗に豪快に砂のカーテンが降り注ぐのです。なんて圧巻。なんて無謀。舞う砂煙。サラサラとした砂を握りしめ、ハイヒールで踏みしめ、そんな演出が「屈辱」をより色濃く際立たせていて鳥肌ものの演出でした。
役者さんの話に戻ります。今回がgmn5初参加で、ストリップ学園に出演されていた藤原祐規さん。
私ごときに作品を誰かに伝える事なんてできない、ならば役どころだけでも。と思ってみても「藤原さんの役は電話と天皇陛下と褌の水泳部です」になってしまう。これ伝わる?伝わらないよね?間違っていないはずなのに良さがひとつもお届けできていないよね??
天皇陛下ですよ。一人称“朕”ですよ。しかも衣装が着飾ってるところであからさまな赤ジャージ。
こっちまでチアノーゼ起こしそうな長台詞。その長台詞が、いつしか台詞ではなくなってきたような、30回という公演数だからこそ見える役の変化を感じました。
回を重ねる毎に増える動作。緩急。セーブなんか全くしない。その細い足で立っていられます?って心配になる程のエネルギーを全力でぶつけてくるその様はとてもかっこよかったです。
そして澤田さんとの掛け合い。ここが本当に凄かった。一歩間違えれば下品になり過ぎてしまったりテンポが崩れてしまう、そんなギリギリのラインを見事なバランス感覚とスピード感で楽しませていただきました。あっぱれ。クラッカー纏めて鳴らしたい。
澤田さんと藤原さんとのお芝居が好き過ぎました。
ここの掛け合いもどんどん進化していったのだけれども、コミカルとエロスのコントラストがくっきりとしてきたことによって面白みがより増したように感じました。
あの際どさがたまらない。藤原さん、元々所作が美しい方ですけれども今回ももれなく美しくて、だからこその見え隠れするエロティックさが素晴らしかった。
声の使い方もここぞというところで良い声使ってくるもんだから、恐ろしい子…!ってなりますわ。
多分もうたくさん言われると思うけど言う。「ホールインワンの記念品は何?」と「ややこしい男、きらい?」の言い方はむりしんどいすき(語彙力のないオタク)。
駆け引きに笑いながらも、あまりにも目の前に起きていることの匠の技っぷりにぽかーんとしてしまうこともしばしば。圧倒されるってこういうこと言うんだな。と、いう箇所が結構随所にあるから困る。90分って何分だっけ?
褌への慣れがひどい。というか、初見はその前のキスシーンの衝撃が大きかったのもあるんだけど。キスシーンご馳走様でした。
藤原さんのダンスが大好きなんです。なもんで、褌姿で踊られると筋肉やら関節の動きがしっかり見えるので大変興奮しました。視点がおかしくて申し訳ないとは思っている。
ラストの曲で、劇場壊すんじゃないかってくらいの勢いで踊る姿も大好きだった。全力で挑む姿の美しさとかっこよさと愛おしさに泣く。またgmn5の世界を生きる藤原祐規さんに出会いたい。感覚の全てに電流が走るくらいに最高だった。
全力。全身全霊。
このご時世での公演という緊張感や覚悟も加わり、より強く感じたように思う。
かっこよかった。あの舞台に立つすべての人がかっこよかった。
万人が楽しめる…という作風ではないかもしれない。いや、ないと思う(すみません)
不条理で下品なところもあって、どこかズキズキと痛みを伴う。気付きたくないところまで気付かされてしまう。けれども、その混沌さの中にある揺るぎない愛と、かなり重たい熱量。そこにどうしたって惹かれてしまう。
その中心にいた澤田育子さん。強さと繊細さと沢山の愛情を感じました。
千秋楽でキャスト一人一人、そしてスタッフ、観客へとクラッカーを鳴らす姿のかっこよくてキラキラした姿はきっとずっと忘れない。スカートたくし上げておパンツ見せちゃうそのお姿も込みで!
点と点を線にするには低スペック過ぎる己にがっかりしながらも、反芻を楽しむこの一週間。ああ、終わったんだなぁと。
今回が初めてのgmn5さん。観劇出来てよかった。そして、この作品に携わり、挑んだ藤原さんの姿を見る事ができて本当によかった。
屈辱が大きなテーマだった今回。
楽しいだけではない色々な感情が入り混じっていて、複雑に思うところや考えてしまうところもあった。
それも含めた上で「ただやるだけ」の体感だったんじゃないかな。
劇場で受け取った確かな愛と沸き上がった感情だけは大切にしていきたい。
だから、Thanks & Love!
最高の2020年ラスト観劇をありがとうございました。